『テクノサイエンス・リスクと社会学』合評会
- 作者: 松本三和夫
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2009/09/10
- メディア: 単行本
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- 「テクノサイエンス・リスク」とは?
- 個別リスクに関する研究は蓄積がある.リスク認知に関する研究も蓄積がある.こういったリスク論が政策決定に多くインプットされている.そもそもリスクと社会との関係がどうなっているか,その大局を描くためにテクノサイエンス・リスクという言葉を用いる.テクノサイエンスは科学社会学でなじみ深い言葉である.科学技術と社会といいながら,技術屋だったら技術からの類推で全域を描きたがる.科学者の場合にも同じようなこと.見取り図がないから.見取り図を作りたいから,テクノサイエンス・リスクという言葉でまとめてきた.
- 「事例研究は進んでいくが,理論的な進展がなく,大きな主張は空手形化している」ことに関する批判
- 「存在規定」と「対象規定」を分けることの認識利得は?
- 私としては,「存在規定」「認識規定」と言った方が分かりやすい(I氏はそれぞれを「基盤規定」「認識規定」と言った方が分かりやすいと仰っていましたが).
- 認識の次元で,社会が科学に与える影響(あるいはその逆)は,モデルを通してだけではないはず.
- セクターモデルにも「存在規定」と「対象規定」があるとして,「存在規定」と「対象規定」とはそもそも対応しているものなのか? セクターモデルに出てくる「存在規定」と「対象規定」は「構造」と「機能」くらいの意味にしか理解できない.「存在規定」と「対象規定」とはそもそも対応するという前提をはめられるものなのだろうか.
- 経路依存性理論(マーケット上の技術が挙例されている)
- 初期値に対する鋭敏性という意味ではカオス理論に似ている.
- βとVHSの例.コストパフォーマンスの差はほとんどないんだが,若干どちらかに偏りがあると,一気にどちらかに偏るという話.
- Social ShapingとConstructionismとの関係は?
- ANTは形而上学(経験的検証によって妥当性が決まらない)
- 一時出会いモデル→セクターモデル
- Star and Griesemer (1989)との違いは?
- 二項対立的な図式を越えることができる?
- 中山茂『通史』『科学技術の国際競争力』の4セクターモデルとの違い,Elzinga and Jamison との関係は?
- 中山の4セクターモデルとの相違点は,松本の思想論文の注に書いてある.中山のセクターモデルは専ら分類のためのモデル.膨大な1次資料を分類するために,セクターモデルが使われた.松本はさらにそのモデルを直感的なままにせずに,もう少し規定をきちんとしたかった.記述のツールから分析のツールにするために.当事者の視点なのか分析者の視点なのかをはっきりと分けたい(シュッツとか).松本の場合には分析者の視点からのターミノロジーで.官産学民のセクターモデルを作った上で,ケーススタディをやってみたら,その通りになっていない! という発見が欲しい.
- セクターに2つ意味がある(つまり,存在としてのセクターと認知としてのセクター).その2つを抱え込んだままに動いているセクター.存在としてのセクターをオペレーショナルに決めてしまっている(職業分類)→変数にせず,定めてしまう.その上で,認識としてのセクターを観測し,どのようにずれているのかを見極める.
- セクターは4つだけ? 個の分類が一般的であるとしたらその根拠は?
- セクターの内実を特定しない方が良いのでは?
- 市民の素顔が捉えられるというのは本当だろうか?
- セクターモデルには「存在規定」と「対象規定」を分けて議論できるような仕掛けがされているのか?
- セクターモデルの適応限界は?
現在の状況は,複数の理論枠組のあいだで活発な論争が繰り広げられてきた反面,それぞれの理論枠組の適応限界はじゅうぶんに明確にならないまま,従来の理論の枠組への関心は飽和状態に近づき,さりとて,新たな理論枠組の候補が見いだされていない状態であるように見受けられる(49頁).
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- セクターが存在規定から一義的に決まるということが条件.「人間は役割の束だ」といっても医師の場合には難しい(官産学民のどれにも当てはまってしまう).でもその場合には,官産学民ではなくて,「医師免許をもって人を治療する医者」を存在規定とし,「医師」とすればよいのでは?
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- STSは社会学を目指しているのか?
- 社会学の中で科学技術は特異点
- 他の良く扱われる話題と科学技術は同じように扱えるんだということを一生懸命頑張ってきた.
- 社会学の基本的な考え
いて,それぞれに当てはまるものが列挙されるようなときに,的を外しているように思われる.要するに,それぞれのセルからはみ出すようなものが何かを社会学は知りたいのだから.
- 2種のUnderdetermination
- 1つは科学に関わるunderdetermination.いま1つは政策決定に関わるunderdetermination.現実にはある決定がdetermineされる.のだから,何らかの前提や手続きなどが入ってくることによって,determineされているのでは? と考えざるを得ない.
- 審議会は1次近似としては「官」.2次近似としては「審議会」.そもそも,審議会に行けば否応なしに科学者として振る舞えなくなるのは当然だろう(!).
松本三和夫. 2009. テクノサイエンス・リスクと社会学:科学社会学の新たな展開. 東京大学出版会. - God does play dice